そもそもサーフィンは日常社会からの切断である。我々サーファーは “静”を保つために現実から逃げるのではなく、毎日に備えるため、水で心を清める。ジェリー・ロペズ氏は言う。「サーフィンの殆どの時間はウエイティング(待ち)である」と。加えて「だが、サーフィンは“待ち”という行為と逆に、瞬間的に起こるアドリブがあり、アイロニックな道」と表現した。
  最終的にスウェル(うねり)の到着、天候の回復、パドリング、ライニングアップ(波待ち)などの“待ち”の後に乗る一本の波もしくは一回のターンは今までの時間経過を意味のあることに変化させる。「スエルズ・アップ!と聞くだけで我々はじっとすることが出来ない。サーフィンにはそれほど強烈な魅力があるとしか思えない」と彼は語る。我々が全てを賭けている活動の頂点にある波が、パイプラインだ。ここハワイのエフカイ・ビーチパークはマリブの様にゆっくりとエレガントに誰もを受け入れてはくれない。強烈に浅い海底にあるリーフに当たり、凄まじくえぐれ、割れる波がある。誰か名づけた“バンザイ・パイプライン”と呼ばれる波。
  パイプラインが存在するエフカイ・ビーチパークには限られたサーファーだけが入場を許される家がある。公共の公園からパイプラインに向かった所に狭い路地が通 り、その突き当たりにら一日中サーフチェックが行われる場所がある。そこに威風堂々とそびえ立つのがジェリー・ロペズのパイプハウス。
 過去35年間のモダンサーフィンの中で未だにジェリー・ロペズほど、パイプラインを圧倒して乗った人はいないであろう。彼は’70年代に黄と赤が彩 る板に、稲妻の入ったシングルフィンで最もスタイリッシュに波を制した。当時しゃがんで乗るのが基本だったがジェリーはただひとり、チューブの中でリラックスし立ちながら乗ってしまったのである。
 静と道を同化した彼のパイプラインでのライディングは「ライク・ア・ケーキウォーク」と呼ばれた。そんな時代に稲妻をモチーフにしたブランド、ライトニングボルトを立ち上げ、そこの莫大な儲けを資本として’80年にパイプハウスを完成させたのである。
 彼のパイプハウスは最頂点である波、パイプラインをメイクするために生きているサーファーたちにはたまらないベースキャンプとなっている。
 中にはいると 唯一、ビーチ向きにあるスライディングドアーがスクリーンのように存在する以外、全ての部屋は薄暗い。
 各部屋から聞こえる波が割れるサウンドはノイズ(雑音)なしで届いてくる。まるで波を追い求める男達のシアターだ。「 全てのことを忘れ、全てがパイプラインになるために建てられた家」と呼ばれる所似はここにある。
  部屋は合計6つ。最上階にはジェリーさんとハービー・フレッチャーの部屋、 二階にはお母様のフミさんの日本間がある。
 各部屋の壁には佐藤傳次郎氏の名作フォトが並ぶ。レッドウッドのほのかな匂いと薄暗い空間は僕らのフィーリングを落ち着かせる。
 共同オーナーのハービーはAチーム(アストロデッキ)のベースキャンプとして使っていた。アストロデッキの数々のキャンペーンは時代の変化と共にここの敷地内にライダーを集め、制作されていった。
 
 1階にあるキッチンは過去にジェフ・ハックマンがローリー・ラッセルと豆腐を生姜で炒めたり、恐竜サイズの肉食ディナーをビンス・クラインとレイアード・ハミルトンが用意していたり、現在ではネーサン・フレッチャーとジョエル・テューダーが草食について語りながら日本食の食事を作っていた様々な刻まれた記憶。
 この隠れ家には何人ものグレートサーファーたちが時を過ごした軌跡があらゆる場所に刻まれているのだ!
 僕も幸運なことに毎年ここを訪ねては、何十日と過ごしている。最近ではストライダー・ワズルスキー、ジョエル・チューダー、YUチームのライダーたちと共に冬を過ごした。もちろんパイプマスターの時期にはジェリーさんとハービーも現れる。
 昔、お寺が町の集会場兼人生の道場となっていたように、まるでここはサーファーたちのお寺。外にあるホースからでる水は聖水のごとく、パイプラインから上がって来たサーファーたちの体を癒す。当然、必ずとも使用後に敷地の地面 に上がってきた砂を流していくことが暗黙の了解。
住職ともいえるジェリーは言う。「サーフィンは自分の内側と真の関係を持てるようにしてくれる」と、唯その他にヨガぐらいが日常的に忘れがけている部分を気づかしてくれるのだと彼は教えてくれた。
 サーフィンでは未だにフォルク・ロアーを大切にしている。サーフ・リアライゼーション・フェローシップ。歴史は言葉で残されている。経験のあるものから知識を聞き取る。ジェリーさんは言う。「サーフィンを始めた瞬間、波乗りを学問として受けとめる」そして、その学生たちは筆記を必要としないネイティブスタイルを用いる。ルールはない。全てが優れたウオーターマン同士のリスペクト(尊敬)で貫かれている。悪ガキたちと言われる集団が集まっているのに家は常に汚れ一つないのである。彼らは自分にとって何が世の中で一番大切なものなのかを知っているからこそ、必要のない社会から選択として切断をしているだけであろう。
 エスケープとは「逃げる」事ではなく「行く」と言う事から始まっている。ましてや誰もが迷わされている世界にもう戻る必要もない。この家には毎冬、自分が生きている確固たる理由が存在するわけだから、全てをそれに集中することができる。僕自身にとってもこの家は、最高の隠れ家であり、修行場であるのだ。
海神が宿った寺子屋。
ジェリー・ロペズとトップサーファーたちのパイプハウス
ウエイブ
Free&Easy MAR.1999,Vol.2 No.5